歌もの作曲についての話

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どうも池住です。専門は歌ものです。
まわりのDTM界隈や、商業の人はインスト勢が多いのですが、僕は生身の人間(自分含む)が歌うことを想定して曲を作ることが多いです。(ボカロ免許はもう剥奪されてますので今はボカロPではありません)
音楽におけるメロの重要性が下がっていく昨今ですが、いいメロはまだまだ強いと思っているので、歌ものを作る時の持論を展開していきたいと思います。




歌ものとはなんぞや

デジタル大辞泉によると、「楽器の技巧よりも歌唱に重点のある曲」だそうです。
要は、歌がメインで、楽器は伴奏の音楽ってことですね。なので、米津玄師もマキシマムザホルモンもシューベルトも歌ものですが、Meshuggahは歌ものとは言いません。また、歌メインだけを取れば童謡なども入ってきますが、ここではポップミュージックの話とします。

体感として00年代中盤から「歌もの」を標榜するバンドが多くなった気がします。90年代後半からパンクなどにおいて歌メロを重要視しないバンドが出てきて、90年代に当たり前だったJ-POP的ロックバンド以外のバンド像が認知され、00年代中盤以降は「歌もの」という再定義の仕方がアリになったのではないかと。完全に推測ですが。

サビ

近年の日本のポピュラーミュージックの特徴として、サビの盛り上がりに重点が置かれていることがあげられます。作曲家はいかにサビを派手にするか、覚えてもらえるかに腐心します。その結果、サビで音域が最も広く、アレンジも壮大になっていることが多いです。
洋楽だと、例えば5年前に売れまくったUptown Funkも一番盛り上がる「Don’t believe me Just watch」のところはほぼほぼホーンのリフですが、J-POPだとこうは行きません。

ちなみに、60年代くらいまではいわゆるサビが無い曲も多く、たとえば「上を向いて歩こう」とか「夜明けのスキャット」とかはA-B-A構成で、どちらかと言うとAメロのほうが曲の核となっています。70年代からカラーテレビが普及し小柳ルミ子や西城秀樹が登場するわけですが、そこから日本のメインストリームの音楽が40年もの間楽曲の肥大化・複雑化が止まらなかったのはなかなかすごいことなんじゃないかと思います。

音域

話が逸れました。もうちょっと実用的な話をします。
ボーカロイドと違って人間は歌える音域は限られていますので、それを考慮に入れたメロディづくりが求められます。
一般論としては、男女の地声は次のような音域になることが多いです。

男性:Mid 1D〜Mid 2G
女性:Mid 2G#〜Hi C#

あくまで一般論であり、歌う人の情報がない場合に参考にすべき値でしかありません。男性に関しては、ある程度歌をやっている人であればもう1音ほど上まではいけることが多いのではないかと思います。実際、J-POPでこの音域に収まっている男性ボーカル曲はあまりありません。
実際に歌う人の音域がわかっていれば、それに合わせて作曲できるのが望ましいですが、音域の広い人が歌うからといって無闇に3オクターブのメロディを作ると、高音域低音域で歌唱力に差は出ますし、曲として不自然になることが多いです。天下のB’zでさえメロディとして存在するのは1オクターブ半くらいであり、それ以上の音域はフェイク(アドリブ的なメロディ外のライン)で使っています。

また、HiAが上限のボーカリストにHiAの音を連発するとたいてい1曲もちません。出る音域と使える音域は人によっても違いますし、メロディの形によっても違います。このページに詳しく書きました。

ファルセット(裏声)に関してですが、地声の上限の音はファルセットだと意外に低いもので、この転換点あたりがうまいボーカリストは希少です。ファルセット想定だとしても、あまり期待しないで書いたほうがいいかもしれません。

音域の調整をするために転調のテクニックが活用できます。というか必須のテクニックです。ぜひ様々なパターンの転調を覚えてください。

譜割は歌詞のイントネーション優先

歌もので最も大切なのは歌詞がちゃんと伝わるかどうかだと思っていますので、たとえ1番と2番が少し変わったとしても、歌詞の言葉がそれそのものとして聞こえることを優先します。曲先だと、作詞の際にこちらのリズムにそのまま語が乗ってくることが多いですが、自然になるのであれば作詞のあとにリズムの精査はしたほうがいいと思います。




アーティキュレーションまで想定する

作曲だからといってメロディにばかり囚われすぎると見失うものがあります。その一つが実際に歌が乗ったときのアーティキュレーション、平たく言えばビブラートなどの表現技法のことです。シンセメロの段階ではただの白玉音符でも、実際に出来上がったものがすごいということはあります。例えば、その極地がこれですね。

これのシンセメロのデモなるものを想像すると、サビは「ラ♭ラ♭〜〜〜〜〜〜」になってしまい、こんな曲コンペで通る気がしませんが、実際出来上がっているものはちゃんとサビとして成り立っています。このように、音程やリズムに関しては面白くないがアーティキュレーションによって説得力がMAXになるメロディというものが存在します。選択できるアーティキュレーションが豊富なシンガーに主張がありすぎるメロを歌わせると情報過多になるので、メロディは面白くないほうがいいという考え方さえできます。
逆に、誰が歌うかわからない曲や、歌がそこまで上手くない人のための曲を書くと、メロディだけでクオリティを担保しようとするので、情報量の多いメロディになります。

メロディを形容することばについて考えたい

強い/弱いメロディ
インパクトのあるメロディ
男性的/女性的なメロディ
アニソンっぽいメロディ

全部たまーに聞く表現ですが、みなさん思い描いているものが違うのでまったくアテになりません。
強い/弱い・インパクトは、一瞬で覚えられるとか、主張があるかどうかだと思うのですが、よくよく聞いてみるとそれ歌詞の話じゃない?ってことが多いです。例えば、ウルトラソウっ!(ハイ)のインパクトは、メロディよりも言葉によるものが大きいと思います。覚えやすいかどうかは様々な要素が絡み合っているので、メロディだけ抜き出して覚えやすいかどうかを論じるのはあまり意味がないような・・・。
男性的/女性的は、なんとなく起伏がなく降りていく方向性のメロディは男性的、逆に起伏がはっきりしていて上がって終わるメロディは女性的、みたいなニュアンスを含むことが多い気がします。男性は高い音が歌いづらく、女性は低い音が歌いづらいのでまだ整合性はあるかもしれません。
アニソンっぽいメロディは、もうおそらく言う側の頭に特定のアニソンが浮かんでいます。「アニソン」は「ヴィジュアル系」くらい音楽的な内容に責任を持たない言葉なので、一切当てにしてはいけません。アニソンの特徴は、尺が89秒であることくらいです。

予想外に長い記事になってしまいました。参考になる部分があれば幸いです。




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